東京地方裁判所 昭和41年(手ワ)46号 判決 1966年4月30日
原告 巻淵市郎
被告 大屋熱処理株式会社
右代表者代表取締役 佐藤忠孝
同右 大屋林二郎
被告 大屋林二郎
右訴訟代理人弁護士 萬谷亀吉
同右 伊藤芳生
主文
被告らは各自原告に対し金五〇万円およびこれに対する昭和四〇年一二月二一日以降右完済まで年六分の割合による金員の支払をせよ。
訴訟費用は被告の負担とする。
この判決はかりに執行することができる。
事実
原告は、主文第一、二項と同旨の判決および仮執行の宣言を求め、請求の原因として、
被告大屋林二郎は昭和四〇年八月一五日当時被告大屋熱処理株式会社(以下被告会社と略称)の代表者であったところ、右同日左記約束手形に「大屋熱処理株式会社取締役社長大屋林二郎」と記名捺印しかつ個人としての記名捺印をなして、これを振出した。
金額 五〇万円
満期 昭和四〇年一二月二〇日
支払地、振出地共 東京都大田区
支払場所 株式会社三菱銀行池上支店
振出日 昭和四〇年八月一五日
受取人 富士陸送株式会社
訴外富士陸送株式会社は右手形を原告に裏書譲渡し、原告は右手形の取立を訴外株式会社新潟相互銀行に委任し、同銀行は更にこれを訴外株式会社冨士銀行に委任し、同銀行において右手形を満期に支払場所に呈示したがその支払を拒絶された。
そこで右手形は順次右各銀行を経て原告に返還された。
よって、原告は被告らに対し右手形金およびこれに対する満期の翌日以降完済まで法定の年六分の利息の支払を求める。
と述べ、被告の抗弁に対し、本件手形振出当時被告会社にその主張のような共同代表の定めがあった事実は否認する、と述べ、≪中略≫
被告ら訴訟代理人は、請求棄却の判決を求め「請求原因事実は認める」と答弁し、被告会社の抗弁として「本件手形が振り出された当時、被告会社は訴外佐藤忠孝および被告大屋林二郎の両名共同により代表される定めになっていたのであって、右定めに反して被告大屋林二郎の単独代表により振り出された本件手形につき被告会社は責任を負ういわれはない」と述べ、証拠≪省略≫
理由
一、原告主張の請求原因事実は当事者間に争いがない。
二、すすんで被告大屋熱処理株式会社(以下被告会社と略称する)の抗弁について考えてみるのに、≪証拠省略≫によれば、本件手形が振り出された昭和四〇年八月一五日当時、被告会社にはその主張の如く、共同代表の定めが存し、かつその旨登記がなされていた事実を認めることができるから、被告大屋林二郎が単独で被告会社を代表してなした本件手形振出行為は元来無権代表行為として、他に特段の事情のない限り、被告会社に対しその効果をおよぼすものではないといわねばならない。
三、しかしながら、被告大屋は本件手形に被告会社の代表資格を表示するに当り、「取締役社長」なる名称を用い(この点は当事者間に争いがないこと前記のとおり)、≪証拠省略≫によれば、被告会社はかねて被告大屋に対して右名称の使用を許していたものと推知し得るところ、右名称は通常単独代表権を伴うものと認むべきであるから、商法二六二条により、被告会社は、被告大屋が単独で被告会社を代表してなした本件手形の振出行為についても善意の第三者に対してその責任を免れないものといわなければならない。
しかして被告大屋が単独代表権を有しないことにつき原告が悪意であったことは被告会社において何ら主張、立証するところがない。
四、してみれば被告会社もまた原告に対し、本件手形金の支払義務あるものといわなければならない。
五、以上によれば、被告らに対し各自本件手形金およびこれに対する満期の翌日以降右完済まで手形法所定の年六分の利息の支払を求める原告の本訴請求は理由があるからこれを認容することとし、民事訴訟法九三条、一九六条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 佐藤安弘)